あぶくま更生園~積極的な木造木質化による居住性の追求~
事業概要
指定障害者支援施設
- 施設入所支援:46人
- 生活介護:40人
- 短期入所(併設型):4人
建築概要
階数 | 平屋 |
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地域制限 | その他の地域 |
防耐火種別 | 準耐火建築物(法2条9号の3ロ-1) 耐火1時間仕様の外壁耐火構造 |
敷地面積 | 9,216.93㎡ |
建築面積 | 3,077.25㎡ |
延床面積 | 2,892.86㎡ |
構造種別 | 木造(軸組工法) |
設計 | 宇野享/C A n |
計画アドバイザー | 東京大学 松田雄二 |
施工会社 | 鹿島建設株式会社 |
工事工期 | 2014年3月~2015年5月 |
木造施設としての工夫
1. スプリンクラー設備を用いた面積区画緩和
準耐火建築物の場合、通常は1,500㎡以内ごとに区画する必要があるが、本施設では全館にスプリンクラー設備等の消火設備を設けることによって、2倍の3,000㎡ごとの区画となるため、本建物の延床面積(2,892.86㎡)では面積区画が不要となっている。
2. 壁面の耐火性能と強度の確保
壁は強化石膏ボードを重ねて張ることで、耐火性を確保している。さらに、壁面の強度も高くなるため、メンテナンスの負担の軽減につながっている。居室の壁は、クロスと腰壁を張って仕上げ、窓枠には木製のベンチを設けている。
3. スプリンクラー設備と排煙設備を用いた内装制限緩和
スプリンクラー設備等の消火設備を設けることで、排煙区画部以外で内装制限の適用が除外され、天井、壁などすべての内装に木材を使うことが可能となる。また、一般に流通しているサイズの集成材を採用し、耐力壁等の配置を工夫することにより経済的な架構となっている。
4. 準耐火建築物を活かした意匠
外壁耐火仕様によって防耐火の要件をクリアして、柱や梁を覆わずに木を見せることができる。また、壁上部のキャットウォークのような薄板は、隣り合う屋根の先端が室内に現れたような意匠となっている。
施設概要
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難によって新設された施設である。本施設のある地域は、冬には数年に一度、50cmほどの積雪がある。震災以前に利用していた施設は、鉄筋コンクリート造であったが、震災後、疲れ切っていた心身を癒す空間づくりを目指し、地場産業への貢献と、温かみやリラクゼーション効果の期待できる木造平屋が選択された。
木造・木質化の特徴
5.居室の木質化
残りの居室とパブリックリビングはフローリングを張っている(上写真)。
失禁など、様々な入居者の状況に対応できるよう、全居室のうち3割は、床に長尺シートを張り(上写真)
6. 水廻りの木質化
各居室ユニットに備わる水廻りは、清掃の面から床は長尺シートを張り、壁と建具を木質化している。
7. 壁の木質化
空間の雰囲気を外部へ醸し出すように、出隅とハイサイドに直交する面を積極的に木質化し、コーナーガードの役割も果たす。
8. 廊下の木質化
廊下は、床、手すり、窓枠、天井を木質化している。壁は部分的に木質化し、地域産材のスギを用いている。
木造木質化の実現のポイント
- 内装に木を用いる際、木製建具の鍵や使用頻度の高い出入口のドアなどは、強い衝撃に弱いので配慮が必要となる。また、木材の乾燥で柱にひび割れが生じることがあるため、入居者が怪我をしないようにすることも必要である。
- 1~2年目は木材が膨張・収縮するため、板張りの壁には板の継ぎ目に適度に隙間を入れるようにして、建具への影響を軽減する。
運営者・現場で働くスタッフの声
- 移転する前の施設にいた頃は、冷たい、暗い、汚い、臭いといったことがあったが、今の施設に移ってから、ギスギスした雰囲気が穏やかになった。[運営者]
- 木はコンクリートなどと違って、触れてもヒヤリとした感覚がないためか、床に寝転がる入居者もいる。[運営者]