幸の郷 ~分棟による木造木質空間の実現~

西側から西棟、北棟を見る
玄関のピロティ
杉板を採用した階段や手摺
ユニット中庭
【A】寝浴対応の高野槇風呂
【A】食事スペース

事業概要

  • 特別養護老人ホーム:定員100 人【A】
  • ショートステイ【A】:定員18人
  • デイサービスセンター:定員30 人【B】
  • コミュニティサロン
  • コミュニティカフェ
  • 工房
  • レンタル会議室

建築概要

階数 【A・B】地上2階建て
地域制限 法22条区域
防耐火種別 【A】耐火建築物
【B】準耐火建築物(一部燃えしろ設計)
敷地面積 8,874㎡
建築面積 3,240㎡
延床面積 【A・B】5,226㎡
【A】4,292㎡【B】934㎡
構造種別 木造(軸組工法)
設計 大久手計画工房、榑建築設計室有限会社
施工 山旺建設株式会社
工事工期 2015年7月~2016年6月

木造施設としての工夫

1. 【A】棟ごとに生活を独立させる

【A】駐車場から北棟を見る

延床面積3,000㎡を超える特別養護老人ホームは、3つに分棟化することで建設が可能となる。分棟により施設を住宅サイズに近づけて、各棟に玄関を設けることで、それぞれ生活が完結する。エレベーターは3基必要となるが、面積を抑えることにより、家族や地域の方も訪れやすくなる。

2. 【B】燃えしろ工法により無垢の柱をみせる

【B】デイサービス廊下

デイサービスセンターは、準耐火建築となっている。燃えしろ45mmをとることにより、無垢のヒノキの柱をそのまま化粧として見せている。また、2階を300㎡以下とすることで、内装制限を受けない建物となるため、内装に木材をふんだんに使っている。

3. 【A】内装制限を受けずに木を多用する

【A】ユニット共用スペース

建物は耐火建築物とし、防火区画を500㎡以下とすることによって、内装制限を受けない建物となっている。天井・壁の仕上げには木を多用していて、温かみのある空間となっている。

4. 一般住宅と同じ軸組工法を用いてコストダウン

構造建て方

耐火建築物であっても、工法の技術面においては一般の2階建て住宅とほとんど変わらない。家をつくる大工が建てられる工法は、地元の業者が参加しやすい工事であり、また、価格競争、コストダウンにつながっている。一方で木材の量は住宅より多くなるため、受けられるプレカット工場が限られることがある。

施設概要

建物は、2階建て耐火建築3棟と、2階建て準耐火建築のデイサービス棟の計4棟で構成されている。 延床面積4,300㎡に及ぶ大規模特別養護老人ホームは、10人単位のユニット×10ユニットを3つの棟に分棟して配置している。各棟にはそれぞれの独立した玄関があり、直接出入りが可能となっている。各棟で食事から入浴ケアに至るまで、すべてを完結できるようになっている。

木造・木質化の特徴

5. 木の建具

木の建具

無垢のスギ材で造られたユニット玄関の框戸は、柔らかな印象を与えている。入居者の居室の扉は開閉が悪くなったところもある。

6. 畳の廊下

畳の廊下

スリッパを履かなくとも歩ける畳の廊下は、スリッパによる躓きがなくなり、転倒時の安全性も確保できる。

7. 紙障子

紙障子

共有スペースに面した居室には前室をつくり、障子を設けている。ゆるやかに外部とつながっている。

8. 床材のメンテナンス

床材のメンテナンス

メンテナンスに慣れるため、職員の手で床材のオイル塗りを行っている。また、転倒に配慮し、床下地もコンクリートではなく、木を採用している。

9. 外装への木材使用

外装への木材使用

木材を使用している外装部分は、変色が起こりやすく、定期的な研磨、塗装の費用や手間がかかる。

10. ピロティ

ピロティ

ピロティにより、立ち寄りやすい空間がつくられている。雨に濡れない広さがあり、地域の協力でマルシェが毎月開かれている。

運営者・現場で働くスタッフ・設計者の声

  • 冷暖房費はかなり抑えられていると思う。冬も陽の光で温かく、削減につながっていると思う。
  • 入居者の環境へのなじみやすさという点はすごく効果を感じている。認知症の方でも生活の落差が少なく、穏やかに過ごしていただいている。[運営者]
  • 木造化を選択した理由①建築コストの削減である。建設費用がかかりすぎてしまうと、その後の運営にも大きな影響を及ぼす。コストは景気にも左右されやすいが、基礎工事のコンクリートや杭工事が安くなる木造は、ほかの構造よりもコストが下がりやすい。[設計者]
  • 木造化を選択した理由②増改築の容易さである。たとえば、老人ホームが子供の施設に変わる場合にも、適宜構造計算などを行うことにより、ほかの構造より比較的簡単に増改築をすることが可能となるため、建物を長く利用することができる。[設計者]

施設写真・図面

居住棟の廊下から見る交流スペース外観
居住棟の玄関前の釜(災害時利用も想定)